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苦手だったコンピュータを「人生の味方」に ~ICTを活用した「水耕栽培装置の製作」を研究して

ICT教育

2016/3/7

「欲しいものをつくる」が基本

「欲しいものをつくる」が基本

教授 嶋 久登(左)
プロフェッショナルコース修士1年 田頭 潤さん(右)

 

嶋 :私の研究室に所属する学生には、研究テーマを自由に選んでもらっています。

KICが提唱する「探究実践」に基づき、実生活や社会の中で課題を見つけることが大切ですが、まずは「自分が欲しいもの」を作る。

「自分」も社会の中の立派な「人間」のひとりです。
「自分」という人間が何を欲しているのか。

まずはそれがわかることが社会のニーズにつながるのだという考え方です。
田頭さんは「水耕栽培」の装置を作りたい、ということでスタートし、試行錯誤を重ねながらも実際に装置を制作してもらっています。

水耕栽培1装置

 

田頭 :もともと生物が得意だったので、大学でも生物や植物が学べる学科に進みました。在学中に「植物工場」の存在を知り、大変興味がありました。野菜や果物を、畑など土の上ではなく、工場のような建物の中で効率的に育てる方法です。温度管理や水やり、光の加減もすべてコンピュータ制御されていて、その中で野菜が効率的に作られていることがとてもおもしろいと感じました。これを家庭菜園でも応用できないかな、と思ったのがきっかけです。

嶋 :田頭さんはもともとICTについて学んでいたわけではないので、いい意味でコンピュータにはそれほど馴染んでいません。コンピュータとは真逆にあるような生き物に詳しい。それをICT技術と結びつけて役に立つ装置を作りたいという発想が大変おもしろいと感じました。現在はIoT(Internet of Things)などコンピュータとモノを結びつける事例も増えていますから、新しい考えだと言えるかもしれません。

田頭 :大学時代に「Arduino(アルドゥイーノ)」を使って指示されたものを作ったりするのはそれなりに楽しかったのですが、仕組みなどを理解しないまま使っていただけでした。そのことが悔しかったですし、自分の欲しいと思う装置を自分で考え、自分の手で作りたいという欲が出てきました。このまま社会に出て働くことにはまだ不安だったことも大きかったかもしれません。さらに学びを深めるため、KICに進学することを決意しました。

嶋 :KICには田頭さんと同じように他大学を卒業してから入学する人が多いので、皆さんコンピュータ以外の専門知識を持っています。そこがユニークさでもあり強みでもあると思います。

「これ、誰が使うの?」から課題は見つかります

田頭 :植物工場であれば温度や環境をコンピュータ制御できますが、家庭用では見たことがない。ならば作ってみたいと思ったのがきっかけです。温度や湿度をセンサーで感知し、bluetoothで送ってコンピュータで数値の管理ができること。カメラ画像で成育状況を確認できること、などを装置として考えました。

まず、培養液の中に種をまき、発芽させたら、あとは日光代わりの植物用LEDランプを設置。最初はラズベリーパイを経由して観察していましたが、現在は、研究室のサーバに画像データと温湿度のデータを送ってwebページ上で可視化できるようにしました。実は現在も装置が非常に不安定で、試行錯誤を繰り返している状態です。
嶋 :作って、動かしてみて初めてわかることがあります。実は水耕栽培はそんなに手をかけなくても培養液に種をまくだけで簡単に育てることができます。それがわかると、この装置で野菜を作ったとしてもスーパーマーケットで売っている野菜には価格競争の面ではとうてい及びません。その方面からのアプローチでは太刀打ちできないということになってしまいます。

田頭 :それなら「水やり」を自動制御するやり方を変えようと考えました。当初は人の手を煩わせずに水やりを自動でできるのが楽で良いですし、遠隔でも様子を見ながら、栽培を楽しんでもらえるような装置にしたいと考えていたのですが、あえて「水やり」という行為に「ボタンを押す」というひと手間を加えることで、世話をしていることを実感してもらいたい、と思いました。決して簡単で便利なことが良いわけではなく、水やりという行為を味わうことが人間にとって楽しいことなのだと気づいたのです。

嶋 :「植物を育てる」という行為を楽しむ文化というのがありますよね。貸し農園や稲刈りなどの行為がイベントとして楽しまれていることからもわかるように、趣味やエンタテインメントとして「植物の世話をする」というビジネスもあるわけです。そう考えると、成長過程や世話する様子を、ブログやSNSで公開して、仲間同士のコミュニケーションの場を作ってあげるという方法も思いつけることでしょう。「どうやって楽しませようか」と考えることもビジネスとして成り立たせるには必要な考え方です。

田頭 :家庭の中で植物工場の再現をすることにばかり価値を置いていたのですが、嶋先生からアドバイスをいただいて、全く違う方向からのアプローチができるのではないか、と最近になって考えが変わってきました。

嶋 :私がアドバイスできるとしたら、「社会の目」でものごとを見るということでしょうか。ある程度までは学生に自由に作りたいものを作ってもらいますが、「これ、誰が使うの?」「お金払って買う人いると思う?」と問いかけるとそこから課題が見つかっていくわけです。水耕栽培の装置も、オフィス内の観葉植物に置き換えてみると、ビジネスとしての可能性が出てくるのではないか、と気づくわけです。オフィス用の観葉植物は、常に美しい状態に保たなければならない必要性があるので、実は結構手間がかかります。そこで「水やり」などの世話を「ICT技術で自動制御する」というニーズが生まれる可能性があるのです。

夢中で学ぶうちに「上流工程」も体得

田頭 :KICでは他の研究室の学生との交流もさかんなのですが、現在は横山先生の研究室の学生と一緒に、共同でプロジェクトを手伝っています。実はこのプロジェクトでは私がリーダーに任命され、5人の学生の中心となって動くことになりました。これまでは「言われたことだけをする」といったような他人任せで生きてきた私にとって大きな試練となっています。
嶋 :横山先生は企業や社会とのつながりが多く、その中の一部分の仕事を学生に任せてくださっています。そのひとつを田頭さんが担うことになったのですが、なんでも引き受けてしまうのが田頭さんの良いところ(笑)。なんにでも挑戦しようというその姿勢は評価できますね。

田頭 :私自身は社会経験もなく、物事をあまり知らないという自覚があるので、そのようなチャンスがあればなるべく引き受けたいと思っています。しかし、今回リーダーを引き受けたことは、人生観が変わるくらいに大変なことでした。仕事相手は社会人の方だから、学生気分のままでいては会話もおぼつかなくなってしまいます。相手の話をいかに引き出し、自分たちの意見をしっかり伝えるか。「何に困って」いて「どうして欲しいか」をいかに読みとるか。リーダーとして私が動かないと他の学生たちはもちろん動けない。すべて止まってしまうのです。

嶋 :仕事をされている方なら当たり前のことかもしれませんが、学生にとっては「社会人と話をする」ということだけとっても、まるで世界の違う人と会話するようなもの。学生の常識は通らないのだ、ということを身を持って実感したことでしょう。

田頭 :相手の方の立ち位置まで考えて伝え方を考える、なんてこれまで思いもしなかったことです。でも社会に出たら、実は一番大切なことなのではないかと思います。常に人の気持ちを考えながら説明する、そして必要なものはなにかを引き出すこと。ビジネスで大切なのはなにも技術だけじゃない。人の思いを汲み取れる力なのだということに気づきました。

嶋 :「社会に役立つ技術」以上に「社会に役立つ人」を育てること、それがKICの強みでもあります。田頭さんは実体験を通して身につけられたようですね。

田頭 :もともとコンピュータが苦手だから、と技術を学ぶためにこの学校に来た私ですが、夢中で学ぶうちに技術よりもっと大切な「上流工程」を体得できていると実感しています。

「社会の求める技術」が何であるか、気付かされた気がします。

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